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Coming Home (後編)
※米英で性表現が有ります。また、史実に基づいた設定がちらほらありますが正確ではないのでそういう間違いが我慢できないタイプの方はご注意ください。


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目を覚ますと、モーテルだった。そうだ、自分が今どこにいるか思い出した。
ベッドの中にはイギリスの姿は既になく、外から物音がするので窓を見ると、すっかり身なりを整えたイギリスが、どこから調達したのか水や食料をRV車に積んでいるところだった。
それに、クッションやら寝袋やらを干している。いったい何時に起きたのか。時計を見ればもう7時だ。これなら昼前にプリマスに到着できるだろう。俺はシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びて外に出ると、イギリスは窓を全開にした車の助手席で煙草を吸っていた。やはりどこからか調達した煙草のカートンが車のフロントにでんと乗っかっている。彼がいつも吸っているソブラニー・ブラックロシアンではなく(あと時折デスなんかも吸う…髑髏マークのアレだ。なぜか彼が好んで吸う煙草はパッケージが黒い)、ラッキーストライクだ。いつものが売ってなかったんだろう。
俺に気づくと片方の眉をあげてみせた。
「おそよう」
「起こしてくれないからだぞ。もう準備万端って感じだね。お待たせ」
俺は努めていつも通りに接し、運転席に座った。クッションも干してくれたせいでふかふかだ。
「朝食は?」
「隣のバーに頼んでサンドウィッチを作ってもらった」
「こんな朝にバーが開いてたのかい?」
「いや、さっきまで開いてたんだ。明け方行って、少し飲んで、それで」
「いつの間にバーに行ってたんだい!ずるいぞ」
「お前熟睡してただろ。うるせえな、めんどくせぇ、細かいこたぁいーんだよ。」
まったく、行動が謎の人だ。前の晩に俺とセックスして、明け方ひとりで起き出してバーで飲んでたってのかい?それで、帰り際に「連れの分もサンドウィッチ作ってくれ」って、言うのかい?
「君って本当、変な人だね」
「お前にだけは言われたくない」
むかつくほど、イギリスはいつものイギリスだ。


ハイウェイを降りて国道に入る。93号線を通って3号線へ、そこからすぐにプリマスだ。
午前11時過ぎ、俺達はついにプリマスの屋敷に到着した。
海岸沿いはわずかにリゾート・ビーチとして使われていて、別荘らしき白い家が建っている。
だが大通りから少し内陸に入るともう一面土と草原だ。
もうそこからは道路はない。土埃をあげながら進んでいくと、ぽつりと見えてくる。
イギリスが体を前のめりにさせて、目を細めた。
「あれか」
「そうだよ」
屋敷はぐるりと石塀に囲まれ、中の様子は見えない。ぴったりと門は閉じられている。木の門は傾いていたが、とても300年放置していたとは思えないほどしっかりしている。
イギリスが目を細めて門に触れた。
「思ってたよりずっとしっかり残ってるもんなんだな」
「ああ…これは確かに、取り壊すのをためらう気持ちも分かるぞ」
俺はそう言い、門をゆっくりと押した。誰も入れぬように門は釘で打ち付けられていたが、俺の力ならこんな門なら簡単に開けられるんだ。果たして、みしみしと音を立てながら門は開いた。ああ、なつかしい匂い。
不思議とまだ俺たちが住んでいた頃の息づかいを感じる。300年前から何ら変わらぬ姿で、屋敷はそこにとどまっていた。
さすがに庭は当時の面影もなかったが、野生の花が咲き乱れていた。
庭を通り抜け、玄関の扉を開ける。なつかしい記憶がどっと俺たちに流れ込んできた。
良い思い出ばかりではなかった。でも、俺にとっては大事な思い出だ。よくイギリスは、俺の事を昔のことを忘れちゃった恩知らずみたいな言うけれど、そんなことはないんだ。ただ、過去の思い出に浸っている時間がないだけで。
俺は一部屋一部屋、感慨深く扉を開いていった。家具はすべて取り払われているが、目を閉じれば当時の家具の色や形も思い出せる。
キッチン。よくイギリスがここで料理をしていた。たいして美味しくなかったけど、一緒に食べれば楽しかったな。たまにフランスも使ってたっけ。
居間。ちいさな俺のために、家具の角や椅子の足にはみんな柔らかい布が巻いてあった。俺がぶつかっても痛くないようにと。俺は赤ん坊でもなかったから、そんな必要なかったのに。
書斎。イギリスはいつもここで仕事をしていた。物騒な話もしてたな。俺は仕事をしているイギリスの顔がまるで別人に見えて、ちょっとだけ怖かったんだ。
俺が胸一杯になっていると、書斎に遅れて入ってきたイギリスが不意にきょろりと大きな目をあらぬ方向へ向けた。
「そうか…お前たち、ここを守っていてくれたんだな」
そう独り言をつぶやくと、悲しそうな、けれども優しい顔になって、何もない空間にほほえみかけた。
「どうりで、あのときブリテン島に戻る船にお前たち、乗っていなかったんだな」
「なんだい?イギリス」
焦れて俺は声をあげた。イギリスは俺を見てため息をついた。
「お前には、どうせわかんねえよ」
「まさか、また妖精がどうとか言うんじゃないだろうね」
「ふん…。どうせ信じねえだろうけどな、妖精たちが俺たちのかわりにここに残って、屋敷を守ってくれてたんだ。300年経っても屋敷の姿が変わらないのはそのせいだ。見てみろ…こいつら、こうやって屋敷を掃除して、野ばらを育ててくれたんだ。俺がいつか帰ってくると思って」
イギリスが指の差す方向を見ると、中庭にはささやかに野ばらが咲いていた。
家具もなにもかも取り払ったがらんどうの屋敷。しかし、まだ誰かが住んでいるかのように床は美しく、壁の色も庭の花々も生々しい。
信じたくはないが、確かにここにはお留守番がいたようだ。
イギリスは、目に涙をためていた。友人達の気の長い留守番に感謝の言葉を述べながら。
「でもな…みんな、もういいんだ。ここは取り壊す。新しい時代が来てるんだよ」
ついにぽろりとイギリスは涙を落とした。
「さあ、みんな帰ろう。一緒にイングランドへ」


帰り道、イギリスは何もしゃべらなかった。
俺も、何も言う言葉が思いつかなかった。
イギリスは時折、まるでひざに猫がいるかのように撫でる仕草をしていたが、顔はずっと窓の外を眺めていた。遠くを見る目はきらきらと光をたたえている。泣くのを我慢しているんだ。
「ありがとな、アメリカ」
「なんだい、急に」
「ここまで連れてきてくれて。俺は大事な友達を、あの屋敷に残したまま、300年ちかく留守番させてしまってた」
「気の長い友人達だよね!」
努めて陽気に言うと、イギリスも目に涙をたっぷりためたまま、笑った。
「独立戦争が終わってブリテン島に帰るとき、俺はもう頭の中が空っぽで、こいつらが何をしゃべってたのか、まったく覚えちゃ居なかった。まさか留守番をかってでてたとはなあ」
そう言いながら、イギリスはまた何もないところを撫でている。


夕食は海沿いのデリでタラのフライとホットドックで軽くすませた。
日付が変わってしまったのでその晩は車で寝ることにする。朝のうちにイギリスが寝袋を干していてくれたので、寝心地は良かった。
そしてその夜は、幼い頃の夢を見た。


夢の中では、俺はまだプリマスの屋敷に住んでいた頃の俺で、5歳くらいの外見だった。
プリマスの屋敷の裏手には広い小麦畑があって、小麦の穂が金色に色づく季節になっていた。小麦は俺の頭の上まで育っていて、俺が小麦畑に隠れてしまうと、もうイギリスには探し出せないはずだ。
遠くから、俺を呼ぶ声がする。母親が子供を呼ぶ声に似た、優しくて、不安げで、甘い声。
俺は実って頭を垂れた小麦の穂に紛れて、イギリスを待つ。
突然飛び出していって、おどかしてやるんだ。
「アメリカー!」
イギリスはもうすぐそこまで来ていた。俺は息を止めている。
さわさわと麦が揺れる。
俺はイギリスが近づいてくるのをじりじり待っている。
足音がやんで突然、麦の穂と同じ髪の色をしたイギリスがひょっこり顔を出した。長い船旅のせいで、頬と鼻は塩と日に焼けてがさがさだ。その肌に無理矢理カミソリを当ててひげを剃ったものだから、顎の辺りにちょっとだけ傷ができている。だが俺の大好きな顔。
「見つけたぞ、アメリカ!」
「どうしてここにいるってわかったの!?すごいぞ!」
「どこにいたってお前を捜してみせるさ、アメリカ!」
イギリスは笑いながら俺を抱き上げた。二人はかさかさの頬に頬をよせ、それから手をつないで帰った。プリマスのあの屋敷へ。
優しいイギリス、不器用な所もあったけど、確かに俺たちには愛情が通っていた。


そうだ、彼のことはもっと大事にしなきゃいけなかったんだ。俺の育ての親、俺の神様だったんだから。麦の穂と同じ髪の色の君は、俺にとって豊穣そのものだった。
神様だった君を、俺は昨日、まるで娼婦を抱くみたいに扱ってしまった。
後ろから獣のように、君の顔も見ないで、快楽のためだけに使用したんだ。
あんなことしちゃいけなかった。

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朝、目が覚めるとイギリスはまだ隣で眠っていた。
普段は批判ばかりしてるのに、いざというときは俺を助けてくれるイギリス。今も俺に何もかも預けきって眠ってる。俺を信頼しきっている。初めてその顔を愛しいと感じる。
俺は決意した。


その夜、少しは気持が浮上してきたイギリスに努めて何気なく言った。
「また帰りに2日かかるから、今夜はモーテルに泊まろう」
俺が言うと、ラジオを聴きながら夜のハイウェイのセンターラインをぼんやり眺めていたイギリスはウン、とうなづいた。
「あとは帰るだけだもんな」
イギリスは小さな声で言った。
いや、違うよイギリス。俺にはまだ、やらなければならないことがあるんだ。


果たして、ハイウェイを降りてすぐのところにあるコテージ風のモーテルを見つけた。1つのコテージに1グループだけ泊まれるようになっていて、それぞれのコテージに小さな庭までついている、なかなか良いモーテルだった。
シーズンでも何でもない時期だったので、俺たち以外には客はいないようだった。
車を降りてさっさと部屋に向かうイギリスの後を追いかけようとして、ふと。
「ねえ、君たちにお願いがあるんだけど」
くだらないと思いつつ、何もない中空に向かって話しかけた。
「今夜、ふたりきりにしてもらえるかな。イギリスと大事な話があるんだ」
もちろん、何も見えない俺には、その言葉がイギリスの友達に聞こえたかどうかなんてわからない。でも、まあ、言っといた方が良いと思ったから。
車の側で立ち止まったままな俺に、ポーチ(玄関)の所で気づいたイギリスが声をあげた。
「入らないのか?」
「入るよ」
「お前にじゃねえよ…ん?車で待ってるって?いいけどお前ら、保冷庫を開けっ放しにするなよ」
どうやら妖精さんとやらは俺のお願いを聞いてくれたようだ。


二人ともシャワーを浴びて(今度はガラスがスケスケということもなく!)、イギリスはビールを飲みながらテレビを見ている。俺は意を決して口を開けた。
「あのさ。やりなおしたいんだけど、イギリス」
「何をだ?」
イギリスはテレビを見ている。疲れたのか、眠そうだ。瞬きを繰り返している。
「おとといの夜のことだよ」
ビールを飲む手が止まった。眉を寄せて、不審そうにこっちを見る。
「おとといの何のことだよ?」
「君とセックスした夜のこと」
「………」
触れられたくない話題ということは顔で分かった。あの晩、俺たちはいくら2人きりだったからと言って、いくら溜まっていたからと言って、気安くセックスしてはいけない相手とセックスしてしまったんだ。
「…なかった事にするんならわかるけどよ…やり直すってのは、何だ?」
イギリスはソファにだらしなく沈んでいた体をわずかに起こした。バスローブの前をかき合わせて、なんだか警戒されているように感じる。
「言葉通りだよ。もう一度、やり直す。あの晩、俺は君に対して誠実じゃなかった」
「……別に…誠実とか…いらねぇだろ。あんなん…お互い様なんだし」
気まずそうにもごもごとイギリスはつぶやいた。
「だって君、泣いてたじゃないか。痛かったんだろう」
「……そんなことねぇよ」
「じゃあなぜ、泣いたんだい。気持ちよくてって涙じゃないよね?」
イギリスは居心地悪そうにうつむいている。いつも彼は目を逸らしたりしない。
「痛かったんだろう?」
「痛かった…」
ついにイギリスは小さな声で認めた。
「嫌だったんだろう?」
「ちがう、嫌じゃなかった。それは絶対に嫌じゃなかった。痛かったけど、やめて欲しくなかったから我慢した…」
「なぜ、言ってくれなかったんだい。俺はてっきり君がああいうことに慣れてると思ったから…痛くないんだと思ってた。泣いてるのを見るまでは」
「やめて欲しくなかったからだって、言っただろ」
痛かったのにやめて欲しくなかった?なぜ?慣れてないのに慣れたふりまでして?
どうにもイギリスの言っていることは要領を得ない。俺は次第に焦れてきた。
「イギリス、君はいったい何がしたかったんだい。ねえ本当のことを言って。俺は正直に言ってるぞ。ねえ。俺は昨晩君にしたこと、後悔してるんだ。誤解しないでくれよ、俺が後悔してるのは、君に優しくなかったってこと。もういちどやり直して、優しくしたい」
「なぜだ」
「俺にとって大事な人だからだぞ。君は俺をあの屋敷で育ててくれたし。俺に、心を尽くしてくれた」
「……」
イギリスはいつの間にかぽろりと涙をこぼしていた。泣かせるつもりはなかったのに、また泣かせてしまった。
「泣かないで、イギリス」
「俺に今更恩を感じて、その義理を果たそうってのか、もう何の絆もないのに」
「そう言う意味じゃなくて…」
「お前が好きだ」
イギリスはうつむいたまま言った。
「…知ってるよ。君はいつも俺によくしてくれたし…」
「そういう意味じゃねえよ。お前と…セックスしたいくらい好きだ」
「……」
「だから、昨日は、チャンスだと思って…お前につけこんでセックスしてもらった。俺ってのはそういう奴だ、卑怯な男だ。わかってるだろ、俺はろくでなしだ」
驚いた。イギリスがおれとそんな…そんな風になりたかった?
「ねえ、イギリス。いつから?」
「何がだよ」
「俺の事、好きなんだろう?いつから俺とセックスしたかったの」
「聞いてどうすんだよ馬鹿…ずっと前からだよ!いつからなんて…知るもんか」
イギリスはついに嗚咽を漏らして本格的に泣き出してしまった。
「隠しとこうと思ったのに言っちまった…もうおしまいだ…死にたい」
「イギリス、イギリス。なぜ隠すつもりだった?」
「なぜってわかるだろ!お前は俺の事、嫌いだったろ!嫌いな奴に好きだって言われても迷惑だろ!」
「俺は君のこと嫌いだなんて思ったことはないぞ。そりゃ、ウザいとか変な人だとか思ったりしたことはあるけど」
「ウザくて悪かったな!どうせ俺は…」
話がこじれそうになったので慌てて話題を戻そう。
「とにかく!俺はイギリスのこと嫌いになった事なんてないぞ!」
「…じゃあ、俺のことなんだと思ってんだ。お前なんか、独立してからずっと、俺の話まともに聞いてくれやしねぇし…俺が何贈っても喜ばねぇし…仕事以外で会ったこともねぇし…今回だって、俺が言わなきゃ一緒にプリマス行く気もなかっただろ。お前だけの家じねぇのにさ…」
「それは…。その。ごめんよ…」
「いいんだ。どうせお前にとってそれだけの存在だってことだろ」
「確かに君に甘えてたことは認めるけどさ。でも昨日の事はほんとに反省してる。それに、君に好きだって言われて嫌なんかじゃないぞ」
「………。」
「正直に言うと、君にそういう感情はなかったけど…。つまり、君みたいな性的な感情だよ。でも、今は君を大事に、優しく抱きたいと思ってる」
「…マジでか?」
「うん」
「……」
イギリスの涙に濡れた大きな眼が、俺をまじまじを見つめていた。俺はなるべく、彼の心に届くように、ゆっくりと言った。
「大切にしたい。イギリス」
また、イギリスの目からぽろりと涙がこぼれた。
「やり直させてくれるね?」
「ああ…好きにしてくれ…アメリカ。俺は昨日のこと、嫌だったなんて思ってないけど、お前がやり直したいと言うなら、俺もそうしたい」
イギリスの痩せた両腕が俺の背中に回った。


繋がっている間中、イギリスはずっと泣いていた。
「痛いのかい?」
気になって聞くと、決まってイギリスは首を横に振って「痛くない」と言った。
涙をこぼしながら、イギリスは俺の顔をじっと見て、ぽつりと言った。
「うれしいんだ」
「うれしい?」
「お前が優しいから」
「……」
イギリスは目を閉じた。またぽろりと涙がこぼれる。
俺は今まで、彼にどんな態度を取っていたのか反省するしかない。確かに俺はひどい奴だった。イギリスを邪険にしてたし、彼に対して優しかった事なんてなかった。
「ごめんよ、イギリス」
「いいんだ…俺が勝手に、お前を好きだった、だけだから」
ゆるく腰を回すと、イギリスはまた切なげに眉をひそめ、唇をうすく開いて声を上げた。
「あ、あ、…だから、お前がこんな、風にしてくれて…うれしいんだ」
「これからはもっと優しくするぞ」
「いいんだ、そんな約束するな」
「どうして」
「今だけで十分、幸せだ」
イギリスは俺の腰に両足をからめて、ぴったりと体をくっつけた。動きにくいが、それ以上に密着した体は幸せだった。
「アメリカ、アメリカ」
イギリスはがくがくと揺さぶられながら、俺の顔を見て名前を呼び続けた。
「イギリス、いきそうかい」
「ああ、アメリカ。いきそう。愛してる」
やがて俺達はゆっくりと昇りつめた。達する瞬間、イギリスは声にならない声で「ああ。かみさま」とつぶやいた。
それを見て何とも言えない感情がこみ上げてきた。イギリスの事をそのときは確かに、愛しいと感じた。


俺達は国で、ずっと一緒にいることなんかできない。
たとえば俺とイギリスがどんなに愛し合ったところで、国民が戦争をいつか始めたら、俺達は殺し合わなければならない。それが国だ。
だからイギリスは俺に多くを求めようとしない。
わかってる。わかってるんだ、そんなの!

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朝起きると、イギリスが顔をのぞき込んでいた。
2人ともまだ裸で、イギリスはシーツの中で俺の太ももに自分の太ももを絡めていた。
「おはよう、イギリス」
「おはよう。腹減ったか?」
「うん」
イギリスは俺の髪を優しく撫でた。気持ちよくなって目を細める。
「シャワー浴びたら出発しよう」
「ああ、アメリカ」
イギリスは幸せそうだった。その顔を見ているとどうにも照れくさい。


その晩、俺達は結局RV車の中でまたセックスしてしまった。
イギリスの中はまだ十分に柔らかくほぐれていて、すぐに入ることができた。昨日よりずっと動きやすかった。
イギリスも昨日より体が楽なようで、「気持ちいい」と何度も繰り返し、感じ入ったセクシーな声をあげていた。あんないやらしい声、反則だ。聞くだけでいってしまいそう。
俺達は、まるで恋人同士のように愛し合い、そして眠った。


往路では通行止めだったハイウェイが復旧していたおかげで、復路はほんの3日とかからなかった。
まだ離れがたかったけれども、考えてみれば2人とも一週間は仕事をしていなかった。一刻も早く戻らなければならないのは俺もイギリスも同じだった。名残惜しく思いつつイギリスを空港まで送り届けると、スーツに着替えたイギリスは俺に笑いかけた。
「いろいろありがとな、アメリカ」
「うん…」
イギリスはもの言いたげに俺をじっと見つめていたが、やがてあきらめたように首を横に振ると、荷物をもって搭乗口に向かった。
俺も何も言えなかった。
イギリスを乗せた飛行機は定時に出発した。
俺もいつも通りの生活が始まる。


それから数週間して、プリマスの工事を担当している企業から一通のメールが届いた。
あの屋敷は、俺達が訪れた直後にあっという間に傷んで、解体業者が到着した頃にはすっかり倒壊してしまったということだ。
あまりに粉々に崩れてしまっていたから、俺達が壊して行ったんじゃないかと思われたようだが、そんなこともちろんしていない。
魔法が消えるように、あの屋敷は崩れてしまった。
信じがたいがまさしく、イギリスの例の友人達が魔法をかけていたのだろう。
まるであの旅それ自体が魔法にかかってたんじゃないかと思う時もある。

その後、イギリスからはいつも通りの事務的なメールがきたけれど、それだけだった。俺を避けていると言うより、あの人は俺から身を引くつもりなんだろう。それが俺にとって良いことだと、勝手に思い込んでるんだ。馬鹿みたい。
そんなことより、彼の素直な気持ちが知りたい。
あの旅の続きを、したいと思ってくれているかな?つまり、俺達がほんの一瞬、まるで恋人みたいだった時のことを。
「電話くらいは、してあげてもいいんだぞ」
俺は受話器を手に取った。
荒野に沈む夕焼けに照らされた、彼の横顔は美しかったと伝えたい。ああ、それだけじゃない。
涙をこぼして俺を見つめ、「愛してる」といったその顔を愛しいと思ったこと、あの顔をもう一度見たいと思っていることを。


END.

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(2010/03/22)

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