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Coming Home (前編)
※米英で性表現が有ります。また、史実に基づいた設定がちらほらありますが正確ではないのでそういう間違いが我慢できないタイプの方はご注意ください。
差別的表現がありますがあくまでも会話の一部というだけで、その差別を主張しようという意図はまったくありません。以上を踏まえて大丈夫な方のみどうぞ


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本当は、イギリスなんて連れて行くつもりはなかったんだ。
俺のお気に入りのRV(キャンピングカー)は、対向車も歩行者もまったくいない荒野のハイウェイを160km/hで走っていた。
その助手席に座るイギリスは、背の低い木しか生えない荒野に視線を定めたまま、さっきから何もしゃべらない。
イギリスの横顔をちらりと見やる。その横顔は何の感情も伺えず、人形のようだった。彼の外見は静かにしていれば整っている。だが一旦口を開けば、英国風スラングとお小言のオンパレード。彼はもっと黙っていればいいのに。
車の時計を見やると、午後1時半だった。そういえばランチをとっていない。ずっと座って運転ばかりしているから、腹の減るのが遅いようだ。
「イギリス、お腹は空いていないかい」
1時間ぶりくらいに声をかけると、イギリスはこちらを見た。大きな緑の目が俺を映していた。戦争の時や外交の時はあの眼が恐ろしいほど眼力を持ち、圧倒的な威圧感で相手を制する。だが今は、リラックスしきった猫のように眼を細めていた。
「あんまり減ってないが、これ以上遅い時間にランチをとると夕飯が食べられなくなるな。ランチにするか、アメリカ」
俺はうなづき、ハイウェイを降りて一番はじめに見つけたカフェかレストランに入ろうと言った。果たして、何キロか車を走らせた後に、ぽつんとたたずむレストランを発見し、俺たちはそこでランチをとることにした。


事の始まりは、ワシントンでの国際会議の後、イギリスが俺に「お前、もし週末ヒマなら、ロンドンに遊びに来ないか」と言ったことだった。
彼が俺をこんな風に家に招くことは非常に珍しい事だった。何しろ彼ときたら大変なひねくれ者で、たとえばフランスあたりに「今夜、飲みに行こう」と誘いたいとしても、イギリスの台詞はこうなる。「お前がどうしてもって言うんなら、飲みに行ってやらないこともない!」
だから、こんな風に俺に対しても「遊びに来ないか」なんて言い方をすることは異常事態だったんだ。相当の勇気を出したに違いない。
「ロンドンで何かあるのかい?」
「フットボールの試合がある」
「俺と見に行きたいってこと?」
「違う!チケットが二枚余ってるんだ!マンチェスターU対リヴァプールのプラチナチケットだ、勿体ないだろ!一番フットボールが好きそうなお前にせっかくだから本場のフットボールの神髄ってやつを…」
「悪いけど、週末っていうか、明日から一週間、用事があるんだよ」
最後まで言わせず俺は彼の台詞を遮った。話が長くなるからな。
「あ…そうなのか?…旅行にでも?」
「マサチューセッツに行くんだよ」
「マサチューセッツに?あんな所に、仕事以外で何の用事で?」
言おうかどうか悩んだけれど、彼にも関係ない話でもなかったし、あとあと真実がばれると面倒になると思ったので全部言ってしまうことにした。
「…プリマスの家を見に行く」
プリマスと聞いてイギリスは目を見開いた。
プリマスに建てた家は、彼と俺が一緒に住んだ最初の家だ。そこに住んだ時間は非常に短かったけれど。彼は英国風の屋敷を海沿いに建てて、まだ幼かった俺を住ませた。
「プリマスになんで今さら行くんだよ?」
「…あのへん、何百年も開発が遅れていたんだけど、とうとう企業があの辺一帯の土地を買い上げてね。広大なゴルフ場を作ることになったんだ。で、あの家も取り壊すって言うんで、最後に見に行こうかなあって思ってさ」
プリマスと言っても広い。中心部はちゃんと栄えているけれど、昔俺たちが住んでいたあたりは海風が強く、冬は特にこたえる。そのために昔からほとんど景色は変わっていない。
イギリスは俺の言葉に、うつむいた。
「そうか…あの家、取り壊すのか…。つうかまだ残ってたんだな」
「さすがにもう人は住めないけどね、まだ外観は残ってるみたいだよ。あんな辺鄙な場所に英国風の屋敷が残っていたから、よっぽど歴史的なものなんじゃないかって、調べたみたいだね。それでわざわざ俺の所まで連絡が来たってわけ」
マサチューセッツ州プリマスと言えば、英国からの植民が最初に始まった場所だ。そこに潮風に負けず未だ朽ち果てない英国風の屋敷があれば、確かに歴史的価値を疑う者もいるだろう。
ウンウンとイギリスは何度も頷き、そして、しばらく考え込んだ後、顔を上げた。
「俺も行く」
「えっ!?」
俺はびっくりした。きっとイギリスの事だから、そんなもんさっさと取り壊せばいいんだ、と冷笑するか、小さかったお前との思い出の屋敷を取り壊すなんて、絶対いやだ!と泣き出すかのどちらかだと思ったから。
「何をそんなに驚いてるんだ。俺にとっても思い出のある家だ。最後に見に行ったっていいだろう。それともお前、誰かと一緒に行く予定でもあるのか」
「ないよ。そもそも、誰にどんな説明をするんだい。ここが300年前に俺が住んでいた家だよ、って?」
イギリスは笑った。他意のない笑顔だった。
「それもそうだな!なあ、俺もつれてけよ」
「…いいけど、ここからだと丸3日、ほとんど休まず車を飛ばすんだぞ。結構きついと思うよ」
「一緒なら運転を代わってやれるからちょうどいいだろ」
「まあ…そうだけど」
ここまで彼が素直に頼んでくるのも珍しい。きっと本当に見に行きたいのだろう。
「しょうがないなあ…途中で疲れただの飽きただの言ったらすぐに車から降ろすからね、そこがハイウェイだろうが橋の上だろうが」
「わかった」
イギリスは神妙に頷いた。おかげで俺はイギリスをつれて自宅に戻り、客間を貸してやる羽目になった。翌朝、イギリスがスーツのままRV車に乗ろうとしたので、俺は仕方なく持ってる中で一番タイトなデザインのデニムを貸してやった。だがイギリスにはまだ大きかったらしく、腰ばきの今風デニムになってしまった。まるでティーンだ。ちょっとかがむとトランクスが丸出しだった。トランクスの柄が変なユニオンフラッグだったので俺は大いに怒り、スーパーで新しいトランクスを買わせた。
そして、現在に至る。


遅いランチを取った俺たちは、万が一夕食にありつけなかった時の予備として少しの食料とミネラルウォーター、寝る前に必ず必要になる飲み物…ビールを買って再び車に乗り込んだ。
俺のRVは小さなキッチンもついているのだが、もともと長旅用ではないので貯水タンクが小さい。ちゃんとした料理をすれば水も使う、そうなるとトイレに使う水が心許なくなるので、なるべくキッチンは使わないようにしていた。はりきったイギリスが変な食べ物をこしらえだしても迷惑だし。
イギリスは昨日の朝出発してから、終始おとなしく、かと言って落ち込んでいるわけでも拗ねているわけでもなく、機嫌は良いようだった。
この旅始まって2度目の夕焼けが、何もない荒野の地の果てに沈み、俺たちの車と、俺たちを照らした。夕日を浴びたイギリスの横顔は、俺が子供だった頃からちっとも変わっていない。
旅の理由がそうさせるのか、旅に出てから、俺たちは比較的穏やかに会話し、互いを尊重した。疲れてくると、何も言わずにイギリスは俺に砂糖たっぷりのコーヒーをいれてくれて、運転を代わってくれた。同じように、イギリスが疲れてきたら、俺はすぐに車を駐めて煙草を思う存分に吸わせた(この車は禁煙なんだ、俺のポリシーで)。それはまるで、とてもいい家族のようだった。


途中、予定していたハイウェイが倒木のために通行止めになっていて回り道を余儀なくされ、しかもその周り道では大渋滞に巻き込まれて半日以上のロスタイムを食らった以外は特に大きなトラブルもなく、RVはマサチューセッツに向かって走り続けていた。
交代で運転し、夜はハイウェイのパーキングに車を駐めて少し眠った。この車のベッドは結構寝心地がよいのが自慢で、ふかふかなんだ。2人用のベッドに一緒に横になると、イギリスがくふふっと忍び笑いをした。
「何百年ぶりだろうなあ、お前と一緒に寝るなんて。なあ、覚えてるか?」
イギリスは俺が小さかった頃の事を思い出しているのだろう。俺は夜が怖いと言ってはイギリスのベッドに潜り込んでいた時代もあった。だが、昔の話をされるのは俺がもっとも嫌なことのひとつだ。
「覚えてないね」
そっけなく言って、俺はイギリスに背を向けた。イギリスのがっかりしたような雰囲気が伝わったが、知るものか。
何時間か眠っただろうか、眠りの浅いときに大きなトラックが通ったようで、大きな音がして俺は目覚めた。まだ明け方で、締め切った薄手のカーテンからは朝日が忍び込んでいた。
横を見ると、かたく目を閉じて眠っているイギリスがいた。
背を丸め、両手を自分の口元でゆるくまるめて俺のほうを向いて眠っているその顔は、彼の壮絶な半生のわりにはあどけなくやすらかで、俺が子供の頃からまったく変わっていなかった。
やはり車での移動も2日目ともなるとさすがに疲れたのだろう、彼は深く眠っているようだった。
彼を起こさないように静かにベッドから抜け出すと、俺は運転席に座った。目が覚めてしまったのだから、少しでも先に進もう。

3日目の夕方、ついにイギリスは「湯船につかりたい」とわがままを言い出した。
夜通し車を飛ばせば明け方にはプリマスの屋敷に着く予定だったのに、イギリスは風呂に入りたいと言ってきかない。確かに3日間、ちゃんと歯も磨いて顔と手も洗っているものの、シャワーもまともに浴びていない。ひとり旅なら気にならないが、2人となると互いの臭いも気になってくる頃だろう。
「モーテルを探そう」
俺が言うと、イギリスはウンウンと頷いた。まあ、急ぐ旅でもない。
ハイウェイを降りてまもなく、数件のモーテルを見つけた。イギリスが「湯船!」とわがままを言い通すので、湯船のあるモーテルを探して数件さまようはめになった。これ以上は郊外に行かないぞ、と決めた最後のモーテルにはそこそこ広いバスタブがあり、隣がバー(えらく寂れていたけれど、バーはバーだ)になっていのでイギリスも満足したようだった。今夜はここで休もう。
真っ先にバーに行こうとしたイギリスだったが、自分の臭いに我に返ったのか、バーに行く前に風呂に入ると言った。まあ、それに異論はない。
俺も、2人分の着替えを車から持ち出してモーテルに向かった。イギリスはさっさと俺の貸したデニムを足から抜き取って、部屋に備え付けてあるバスローブをひっつかんでバスルームに直行した。3日間の旅の間に足がむくんだようで、俺の足も彼の足も靴の跡がはっきり残ってしまっていた。
ツインベッドの片方に身を投げ出して、ふうとため息をつく。スニーカーを脱いだらようやく楽になった。
バスルームから水音がして、上機嫌な彼の鼻歌が聞こえてきた。
2人きりでどこかに出かけるなんて、本当に何百年ぶりか。俺も少し口元をほころばせた。仕事で顔を合わせたり、客として互いの家に泊めることはたまにあっても、こんな風に朝から晩まで仕事抜きで2人きり、というのは常になかった。
俺の事を構いたがる性分のイギリスもうれしいのだろう、彼の機嫌は良かった。彼が俺のことをいつまでも弟のように思っていて、鬱陶しい愛情を注いでくれることはわかっていた。そう、たとえどんなに鬱陶しくても愛情を向けてもらうことはありがたいことだ。外交面でもその好意を反映してくれるといいのに、彼は仕事ではまったく容赦ないのがつれない。
何も考えずにふとバスルームの方に視線をやって、俺はギョッとした。
いつの間にか浴槽からあがった彼はシャワーを浴びていた。のだが、磨りガラスがあまりに薄すぎて、バスルームの中にいる彼がほとんど丸見えだった。いや、彼がガラス戸のあまりに近くに立っているせいだろう。
表情までは分からないが、彼がわずかに上を向いて顔に水滴を浴びている様子までわかる。
彼のシルエットは生々しく、体の形がはっきりと分かってなんだか目のやり場に困った。ちょっと待て、なんで俺がうろたえなきゃならない。
元兄弟の裸なんて別に見たって何ともないじゃないかと俺は思い、今度はジロジロ見てやった。あとで、君、丸見えだったぞ、なんていってからかってやろう。
「……」
イギリスは思っていたよりもずいぶん細かった。それに、尻の位置が高い。よく見れば結構足が長い。そういえば背は俺と1インチくらいしか違わないけど顔が小さいから頭身が高いんだろう。…クソ、なんか悔しいぞ、イギリスのくせに。
彼は体を洗い始めた。細く長い手が体中を辿っている。彼自身の手を通して、彼の感触が自分にも伝わってくるように感じて、俺は目が離せない。
なんだか妙な気分になってきた。俺は不思議なことにイギリスの体がちょっとその、いい感じに思えてきてしまったんだ。
胸のあたりや脇の下を洗っているところを眺めているうちはまだ良かったが、下腹を洗い始めたので慌てて俺は目をそらした。さすがにそれ以上は、プライバシーの侵害だ。
やがて水音が止み、バスローブを着たイギリスが出てきた。俺がよっぽど微妙な顔をしていたんだろう、俺と目が合うなり「なんだよ」と怪訝そうに言われた。
「何だよって、何がさ」
「何でこっち見てんだ」
「別に…」
もう一度彼と目が合った。彼は俺の目を見て、すぐに俺の心を見透かしたような顔でニヤリと笑った。 これ以上何を言われてもボロが出そうな気がする。慌ててバスローブとタオルをひっつかみ、俺もバスルームに入った。そして、極力、彼から自分の姿が見えないようにガラス戸から離れて、背中を向けてシャワーを浴びた。


戻ってきたら、彼はビールを片手に、ベッドに横向きで寝そべったままニヤニヤと口元を緩めながら俺を見ていた。
顔を見ればわかる、彼も俺と同様に、俺がシャワーを浴びる様子を見ていたに違いない。
「何、ニヤニヤしてんだい」
「お前、ファックしたいのか」
「What?」
信じれないよ、この人。何言っちゃってんだい?
「なんて言ったのかい、あまりに非常識な言葉に聞こえたけど。まさかね」
「だから、お前、溜まってんだろって。顔見りゃわかる」
この人の無神経にはほどがある。男2人きりの長旅で、抜く事もできなくて少しばかりムラムラする時だってあるだろ。そこはお互い触れないように気を使うべきだろ。
「だったら、俺を1人にしてくれるのかい。ひとり遊びの邪魔をしないでくれるって事かい」
「ひとり遊びだって?おもしれぇ言い方するな、お前!」
イギリスはゲラゲラ笑った。心底むかつく人だ。信じられないよ。
だが、彼はもっと信じれない台詞を言った。
「おい、アメリカ、それなら俺とファックするか」
「はっ?」
「俺がボトム(受ける側)になってやっても構わないって言ってんだよ」
「え、えっ?」
「いいだろ、やろうぜ。お前と同じように俺だって3日分溜まってんだよ」
そう言うと、イギリスは横向きに寝そべったまま、挑発するようにゆるく片膝を立て、足を開く。バスローブの下に何もつけていないことがわかった。乱れた布の隙間からわずかに固くなった性器が見えた。…この人、本当に俺とやる気なのか。拒否しなければと思うのに、俺はなぜか彼の白い足から目を離せない。
「アメリカ、聞けよ、2人の男が誰かとファックしたがってる。だけどそこには2人しか居ない。なら、そいつら2人でやればいい。だろ?」
「何言ってるんだい君。兄弟で、こんなこと…」
俺が思わずつぶやくと、イギリスは冷笑した。
「もう兄弟でも何でもない、って俺に言い捨てたのはお前だぞ」
「そうだけど…。クソ、こんなことするくらいなら、今からここに娼婦でも呼ぶべきだ」
しかしイギリスは妙にも真面目くさった顔だ。
「こんな田舎の商売女なんかやめておけ。みな年増で性病持ちだ」
「君は…時々、ひどく差別的な発言をするよね。そういうの失望するぞ」
「フン。差別じゃない、事実だ。いいから俺にしとけ。俺なら生でもできるし、中で出しても孕まない。それに女のあそこよりよっぽど締まるぜ」
また、そんな下品なことを言う。イギリスのこういうデリカシーのないところが大嫌いだった。
…イギリスは男に抱かれるのが好きなのだろうか?
彼は基本的に胸の大きい女の人が好きだ。どちらかと言うと、ゲイではないと思う。では、バイなのだろうか?…まあ、彼のように千年も生きてれば、いろんな経験もするだろう…彼がバイでもまったく意外なことではない。
確かにイギリスには、ヘテロの俺でさえ欲情させる何かを持っていた。
「君がこういう軽はずみなことができる人だとは思わなかったよ。もっとマシな大人だと思ってた」
軽蔑を含めて言ったつもりなのに、イギリスは気にした様子もなく、缶ビールに口をつけた。
「昔、同性愛は死に値する重罪だった。それが今ではバイセクシャルはインテリのステイタスだ。どちらが正しいと言うこともなく、ただの宗教の違い、時代の流れだろう。つまりな、俺は、ファックに関しては、安全で気持ちよければ何でもいいと思ってる」
「なるほど。分かるような分からないような。君だけの持論だね」
「アメリカ、どうすんだ。やんのか、やんねえのか。やらねぇならこの部屋から出て行けよ。朝まで車で寝てろ」
「君はどうするんだい」
「インポのお前になんか用はねぇよ。今から隣のバーに行って誰かひっかけてくる」
その言葉は気にいらない。まるで誰でも良いと言われているようだった。カッとなって思わず言い返してしまった。
「やめておきなよ。こんな田舎のゲイなんかみんなキャリア(発症していないHIV保菌者)だよ」
イギリスはベッドに寝そべったまま、片方の眉を跳ね上げた。皮肉やからかいを言うときの、実に英国的なしぐさだ。ミスターUK、彼はまさに英国そのものだからな。
「お前の発言の方がよっぽど差別的だな」
「差別じゃない。事実さ」
さきほどの彼の台詞を真似ていうと、イギリスはククッと喉の奥で楽しそうに笑った。
「なら、やっぱり俺たちでやるしかねぇな」
「今夜は我慢するっていう選択肢はないのかい」
「ねぇな。俺は今すぐやりたい。ケツにペニスを突っ込まれてぇんだよ」
イギリスの言葉に俺はため息をついた。ムードのかけらもない誘い方だ。そんな誘い文句でムラムラする男なんているのかな。
…俺か。ここにいた。
どうしよう。彼はとても慣れているようだし、彼の様子じゃ、俺たちが1回寝たくらいじゃ大した事でもないように感じた。
そうさ、こんなこと、たいした事じゃない。俺たちはもともと血のつながった兄弟という訳でもない。イギリスなんか大した相手でもない。この事で関係が壊れたら何だというんだ。別に今までだって、そんなに良い関係だった訳じゃない。友達でさえなかったんだから。
何だか気が楽になって、イギリスの横たわるベッドに乗り上がった。
「お、やんのか」
「やるよ。君がどうしてもしてほしそうだからね」
「そりゃどーも。気持ちよくしてくれるんだろうな」
「どうかな。君と違って、俺は男とやった事ないからね」
「やり方は同じだ。リラックスして、いつも通りにやりゃいいんだよ」
イギリスはやたらと優しい声でそう言った。俺の頬を撫で、足を開いて俺の体を両脚で挟むようにした。
リラックスして、いつも通りに…ね。オッケー、やってやろうじゃないか。
「そうだお前。服を脱ぐ前に、ちょっと車に戻って、何か潤滑剤の代わりになりそうなもの取ってこい」
「そんなもの、ないよ」
「何でもいいんだ、ボディクリームとかないのか」
「女の子じゃないんだ…そんなもの持ち歩かないさ…あ、あれ使えるかも。待ってて」
俺は急いでRVに戻り、キッチンからオリーブオイルを取ってきた。イギリスはそれを見て、満足そうにうなづいた。


イギリスは裸になった俺のペニスに手を寄せて、やさしく愛撫してくれた。さすがに口ではしてくれなかったが、まあ、恋人同士でもないのだから当然だろう。イギリスの筋張った手でペニスをこすられて勃起すると、イギリスはオイルを手に取り俺のペニスに塗りつけた。ぬるぬるした感触に俺は声を上げてしまった。イギリスの手は優しく、そして気持ちいいところを確実に責めてきた。
男とは初めての俺に配慮したのか、セックスはバックでした。犬のように四つん這いになった彼は、自らの手で後ろにオイルを塗り、指でぐちゃぐちゃにしてから、俺を誘った。
「もう大丈夫だ…入れてくれ」
彼のそこは濡れてはいるものの、まだ口を閉ざしており、俺には準備ができているようには見えなかった。
「なんか、今入れたら痛そうだよ」
「入れたらそのうち慣れてくる」
「でも…」
イギリスは苛々と声を荒げた。
「早く入れろって!」
そこまで言われては労ってやる必要もないだろう。俺は彼の腰をつかむと、自分のペニスをその窄まりに押しつけた。彼が息をのむ。ゆっくりと先端を押し込ませたが、やっぱりきつい。
彼の背中が汗をかいていた。膝をついた足が震えている。やっぱり痛いんじゃないか。
「やめようか?」
「やだ、やめるな!」
彼が顔も見せずに叫んだ。その声が妙に必死で、なんだか哀れだった。
ためらったけれど、もう一度だけゆっくりと押し込んでみた。彼がまたぐうっと息を詰めた。俺は初めての感覚に完全に夢中になっていた。確かに、すごく締まる。女性の包み込むような柔らかい感触と全然違って、全方向からぎゅうっと俺を締め付けてきた。
あとはもう、イギリスの願い通りにしてやった。まあ、俺の思い通りでもあったんだけど。つまり、出したり、入れたりを繰り返した。
初めてのアナルセックスに、俺自身、萎えないか不安だったけど、全然大丈夫だった。彼の体があんまり男っぽすぎず、かといって女っぽすぎず、ちょうどいい具合だったから。背中から尻にかけてのラインはなかなかそそるものがあった。女性よりも上に穴がついているせいで彼のあそこが俺のペニスを呑み込んでるのが丸見えで、それも刺激的だった。
彼の体はずっと震えていて、突き上げるたびに痛みに耐えるような切なげな声が聞こえた。本当に気持ちいいのかな?不安になって彼のペニスに初めて触ってみた。
驚いたことに彼はとっくに射精していた。とろとろになった性器を捕まれて、彼はビクンと体を跳ね上げた。
「だめ、やだ、触るな!」
「いついったの?」
「知らない、知らない…」
彼はうつぶせて枕に顔をこすりつけていやいやと顔を振った。
「やめようか?いったんなら、続けるのつらいだろ?」
彼はもっと首を横に振った。
「やめないで…お前がいくまで、続けてくれ」
妙に健気なようすだったので、胸が痛む。彼ってこんなに従順だったのか。
再び動きを再開させる。最後までするために。
なるべく早く終わらせてあげようと思ったんだけれど、結構長い時間がかかってしまった。いくら無神経と言われる俺だって、イギリスとセックスしている事実は結構ヘビーで、なかなか快楽に集中できなかった。だが、やがてゆるやかに体が快楽に支配されてきて、俺は腰の動きに集中できた。
「ああ、もういきそうだ」
「あ、あ、な、中に、出して」
イギリスが切なげな声でそう言った。彼は挿入してからずっと枕に顔を押しつけて、俺のほうを見ようとしない。
やがて俺は昇りつめて、イギリスの中にすべて吐き出した。奥に奥にと腰を押しつけると、イギリスも腰をあげて、よく深く繋がれるようにしてくれた。
しばらく二人とも荒い息をついたまま、まったく動けなかった。
それから少し柔らかくなったペニスを彼からゆっくり引き抜くと、まだ彼のそこは俺の形に口を開いたままで、肉色の粘膜が精液をまとわせながらてらてらと光っているのが見えた。
彼は結局何回か射精したようで、彼の太ももからシーツにかけて、彼の精液が大量に垂れていた。
俺はうつぶせの彼を横向きにさせようと体をひっくり返させて彼の顔を見る。
彼の顔は涙でぐしょぐしょだった。枕も涙を吸ってじっとりと濡れていた。
「やっぱり痛かったんじゃないかい!なんで我慢なんかしたんだ」
「痛くねぇって言ったろ!痛くなんかなかった!」
ムキになってわめく彼の顔は見るも無惨だ。目の下は涙でむくみ、枕に押しつけられて頬の薄い皮膚がすり切れていた。
「気持ちよかったんだ!本当に…!」
まあ、確かに彼はなんども射精していたようだけれど。彼の様子があまりに異常だったが、気持ちいいと本人が言っているんだ、そういうことにするしかないじゃないか。
「なら、いいけど。…中、大丈夫?」
「大丈夫だ…どうだ?お前こそ、良かったか?」
「うん。まあ…悪くなかったよ」
「そうか」
イギリスはベッドサイドのウエットティッシュで自分の尻の狭間を何度かぬぐい、次に自分のペニスをぬぐった。俺のペニスも清めようとしたので、さすがにそれは自分でやるとイギリスの手からティッシュを奪った。
かんたんに身を清めると、イギリスは隣のベッドに移った。…俺がこの精液まみれのベッドに寝なくてはならないようだ。仕方なくシーツの上にタオルを引いて寝ようとしたが、枕はイギリスの涙とよだれでべちょべちょだし、2人分の精液の臭いでとても眠れそうにない。
「そっちのベッドに俺も入れてくれよ」
「……」
「ねえ、イギリス」
俺のおねだりに彼が逆らえた試しはない。イギリスはため息をつくと、ブランケットの裾をつまんで持ち上げ、俺に「ほら、来いよ」と言ってくれた。
セックスしてしまった後なのに、彼は特段、いつもと変わった様子もなく、俺に背を向けて体を丸めて眠ってしまった。
俺もしばらくは横になったまま目を開けていたけれど、疲れていたのですぐに眠ってしまった。
そういえば、結局バーには行かなかったなあ、なんて思いながら。

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(2009/02/21)
後編に続く

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