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Temptation(1)
※ぬるいですが性表現が有ります

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今夜は、誰かに優しくされたかった。
優しくしてくれるなら、誰でもいい。

もう一週間くらい、仕事以外で誰とも話していない。認めたくないが、アーサーは人恋しかった。
だから、アーサーはそのバーで、いつもより慎重に、優しくしてくれそうな男を捜した。
アーサーはたいがいこのバーで、一夜限りの遊び相手を見つけている。そこはゲイには有名なバーだったから、セックスの相手を探すには最適の場所だった。
ふと、こちらに視線を向けてくる男に気がついた。こんな場所には不似合いな、美しい洒落た男だった。肩に付くぐらいのブロンドはゆるやかに巻いており、薄暗いバーの中でもつやつやと光を反射させていた。煙草をくわえながらも薄くほほえんだ唇は官能的で、特に美しい青い目が、まっすぐにアーサーを見ていた。
優しそうというか、慣れてそうだ。しかし、慣れているなら都合が良い。
(あの男にしよう)
アーサーはその男を見つめ返した。

かくして二人は今、バーから少ししか離れていないホテルにしけこんでいた。
「ねえ、アーサー。なんでお前みたいな真面目そうな子があんな所にいるの」
フランシスと名乗ったその男は、アーサーのシャツを脱がせながら言った。
「バーにそぐわない若い子がいるなあって、俺思ってたんだよ。あんなとこに居るの良くないよ、アーサー学生でしょ?」
「はあ?ふざけんなよ、俺は立派な社会人だ。大学だって出てんだぞ」
ええっ!?とフランシスは派手に驚いた。
「良かったぁ。未成年だったらどうしよう、お兄さん捕まっちゃうなって思ってたんだ」
ホッとした顔でいそいそと自分の服も脱ぎだしたフランシスに、アーサーは呆れた視線を向けた。この男はどうも、落ち着いた見た目と裏腹に、すごくおしゃべりの好きな男のようだ。
「あんた、ずいぶんよくしゃべるな。そんなことよりさっさとやろうぜ。なあ、早く入れろよ」
「待って待って、ちゃんと準備してからね」
優しそうな男、というのは当たっていたようで、フランシスはアーサーをとても紳士に扱った。
じれったい、とブツクサ言うアーサーにキスをたくさんして、ローションを大量に使ってアーサーの後ろの穴をぬるぬるにしたあと、ようやくそっと入ってきた。
「ああ…すげ、でけえ…フランシス」
「ン…」
フランシスは美しい顔をゆがめ、締め付ける快感に耐え、アーサーを優しく揺さぶった。
揺さぶりながらもアーサーの名前を呼んでくれ、「可愛い」と何度も言ってくれた。
アーサーは大きく足を開き、夢中でフランシスにしがみついて涙をこぼした。気持ちが良かったし、優しくされたいという願いも叶った。
「フラン、シス、…もっと動いて…」
「ああ……アーサー」
その後、なんどか強くアーサーを突き上げると、フランシスは低くうめいて射精した。体の中でビクビクとふるえるフランシスのペニスを感じ、アーサーもフランシスの手の中に射精した。
二人はしばらく汗びっしょりの体を重ねたまま息を整えていたが、フランシスがペニスを引き抜く刺激でアーサーはびくびくと体を痙攣させた。ゴムの中にたっぷり溜まったフランシスの精液を見て、アーサーは意地悪く微笑んだ。
「なんか、量多いな。お前」
「うるさいね…久しぶりだったんだよ…」
ムッとした顔でゴムをペニスから外すフランシスに、アーサーは意外だなと思った。こんなに美しい男なら、誰だって寝たがるだろうに。

それから体位を変えて再びセックスして、一緒にシャワーを浴び、互いの髪を乾かしたあと、ホテルの退室時間が迫っていることに気付き、急いで服を着た。
「3時間って短いよね」
フランシスはそう言ってホテルのフロントにキーを返した。
「お前がねちねちペッティングをしたからだ。入れて出すだけなら30分くらいで終わるだろ」
「アーサーお前って奴は…もうちょっと言い方にムードがないの」

アーサーが可愛いのはベッドの中だけだね。フランシスがふざけて言った言葉が、アーサーの心を抉った。前にも誰かに言われたことがあって免疫はできていたが、優しくされた後だったのでダメージがでかかった。
心からムッとしたアーサーは、その後ろくに会話もせず、一方的にフランシスに別れを告げて、ホテルから立ち去った。
どうせ一晩限りの関係だ、去り際の余韻など気にする必要もない。

そもそも、こんな深夜に3時間のいわゆる「ご休憩」でホテルを取るには理由があった。アーサーが昔、まだそんなに経験の無かった頃、行きずりの男とホテルに入って、宿泊した。朝目覚めると、アーサーの貴重品はすべて持ち去られ、男はさっさと行方をくらましていた。それ以来、行きずりの男の前で眠ったことはない。一緒にシャワーを浴びるのも同じで、昔一人でシャワーを浴びているときに、財布から金を抜き取られた経験があるからだ。まったく、ケツまで掘らせたのに金まで盗まれるなんて、それも二度。アーサーはつくづく運のない男だった。それなのに、こりずにのこのことバーに出かけるアーサー自身が一番の問題なのかもしれなかった。

さっさと出て行ってしまったアーサーにため息をつき、フランシスもホテルから出ようとした。すると、後ろからフロントの男が慌ててフランシスを呼び止めた。
「間に合って良かった。あんた、302号室だったろ。財布忘れてるよ」
「え?ああ…これは」
俺のじゃない。フランシスは気づいて慌ててアーサーの後を追ったが、もはやアーサーはどこにもいなかった。
「まいったね」
やたら薄い財布を開くと、ごく少ない紙幣と、免許証が入っていた。住所がわかれば送り返してやろうと思い、免許証を見る。アーサー・カークランド。本名だったようだ。
(なんだ、あいつ24歳か。成人だって言うのは本当だったんだな)
フランシスはわずかに口元をゆるめた。年齢よりずっと若く見えるアーサーの顔を思い出した。神経質そうな顔立ちに手入れのさほどされていないくすんだ金髪。全体的に肉付きの悪い痩せた体。どう見てもそれほどの美形ではなかった。本当に「まあまあ、そこそこ」だった。しかし大きな緑の目は感情豊かで魅力的だ。フランシスをじっと見つめ、心の中まで暴こうとする。気持ち良いとき猫のように目を細めるのも可愛い。
さきほどまでのアーサーの痴態を思い出し、フランシスはわずかに生唾を呑み込んだ。

住所を見ると、驚いたことに、このホテルのすぐ側だった。
この距離なら、届けに行った方が早い。フランシスは財布を持って免許証の記す場所へと向かった。

果たして、そこはホテルから10分も離れていない、大通りに面した4階建てのフラットだった。
築年数はかなり経っていそうだが手入れのされたそのフラットの、最上階の角部屋にアーサーが住んでいる(と免許証には書いてある)。
時刻は夜1時。明かりはついていない。まだ帰ってきていないのかな、と思い、鍵付きのポストにその財布を入れると、フランシスはさっさとそこを立ち去った。
ネームプレートも書かれていない405号室。

フランシスはその後、タクシーを拾って自分のフラットに戻り、眠った。
アーサー。行きずりにしては悪くなかった。むしろ良かった。親を探す子猫のような切羽詰まった寂しげな目が印象的な童顔の青年。感極まったアーサーのすすり泣く声がしばらく頭の中にリフレインしていた。

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(2009/09/06)
なんと、続きます…

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